多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?
両側卵巣の多嚢胞性腫大に何らかの月経異常、不妊を伴い、内分泌検査でLH高値を特徴とする内分泌疾患をいう
症状
月経異常(無月経、希発月経、無排卵周期症)
不妊
内分泌検査でLH高値
卵胞は育つがLHサージが起こらないので排卵しない
下図のような男性化兆候を示す場合もある
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病態
1 下垂体からのLHの過剰分泌 FSHは正常

2 LH過剰により莢膜細胞(注1)でのアンドロゲン過剰産生


3 過剰なアンドロゲンが肝臓での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)産生を低下

4 SHBGが低下するとエストラジオール(E2)が上昇

5 ここで肥満があると肥満細胞のアディポサイトカイン(注2)分泌異常を起こす。
アディポサイトカインはインスリン抵抗性(注3)を示すので血中インスリン値が上昇します。
インスリンは肝臓での上記SHBGを低下させ、更に莢膜細胞でのアンドロゲン産生を促進する。
更に肥満細胞のアロマターゼ(注4)によりアンドロゲンをエストロンE1に変換させてしまう。

6 結果エストロゲン(エストロンE1とE2)が上昇

7 エストロゲン上昇により異常なフィードバックが視床下部にかかり、GnRHの分泌亢進

8 エストロゲン上昇によって下垂体からのゴナドトロピン分泌はLH優位となる

9 FSH不足で顆粒細胞の増殖は減り、LHの過剰によって莢膜細胞は増え、さらにアンドロゲン産生を増加させてしまうという悪循環に陥ってしまいます。

10 莢膜細胞増加、顆粒膜細胞増殖障害、アンドロゲン過剰により卵胞発育が障害される。

(注1)
卵胞は一次卵母細胞を周囲の卵胞細胞、顆粒膜細胞、莢膜細胞で取り囲んだものをいう 。
卵胞でコレステロールを材料としてLHの作用で莢膜細胞にアンドロゲンが作られる。
アンドロゲンは顆粒膜細胞でFSHの作用を受けてエストロゲンを産生する。
(注2)
アディポサイトカインとは脂肪組織から放出される生理活性物質です。
アディポサイトカインには代謝を是正する方向に働く「善玉」と悪化させる「悪玉」の双方があります。
ここでの分泌異常は善玉が減り、悪玉が増えることによってインスリン抵抗性が増すのです。
(注3)
インスリン抵抗性とは、膵臓から分泌されるインスリンに体が反応せず、血糖値が高くなる状態です。
(注4)
アロマターゼとはアンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素の事
TOPICS
☆無排卵によってE(+)P(-)になると子宮体ガンのリスクが上昇する。
若い女性の子宮体ガンの背景にはPCOSがある可能性。
西洋医学の治療
ホルモン補充療法
1.Holmstorm療法 (プロゲステロン補充)
2.クロミフェン
3.ゴナドトロピン療法(OHSSに注意)
手術療法
1.腹腔下卵巣多孔術(卵巣に傷を付けてダメージを与える。その結果アンドロゲンの産生を抑える事が出来る)
鍼治療でのPCOSへのアプローチ
PCOSは内分泌疾患ですので明らかに視床下部ー下垂体系の機能異常が原因です。
鍼灸治療では自律神経の鍼で視床下部ー下垂体系の機能の正常化を目指します。
卵巣に対しては強めの刺激をして卵巣の機能の低下を目指して余分な卵を発育させないようにします。
1.視床下部ー下垂体系 正常化の鍼
LH優位となるのは下垂体ホルモンの異常ともみなせるので視床下部の異常、すなわち自律神経の乱れと思われます。
鍼灸治療では自律神経失調症の鍼を行います。
自律神経の乱れは脳疲労が原因ですので脳への血流を改善する目的で首肩こりや頭部への鍼治療をします。
自律神経の鍼治療の詳細はこちらから
2.卵巣刺激の鍼
PCOSSの原因は莢膜細胞でのアンドロゲンの過剰な産生ですのでアンドロゲンの産生を低下させる目的で鍼治療を行います。
西洋医学に腹腔鏡下卵巣開孔術(多孔術)LODというものがありますが、これは電気メスやレーザーメスなどで卵巣皮質に穴(3~5ミリの深さで10~30か所)を空けて自然排卵の回復を期待し、OHSSや多胎のリスクが軽減する効果があります。
卵巣にダメージを与えるとアンドロゲン産生が低下する効果がありますので、アキュレの鍼治療も同様に卵巣周囲に強めの刺激(痛みスケール4~5)を加えて卵巣にダメージを与えてアンドロゲン産生を低下させます。
使用する経穴は下図の左右の卵巣点に強めの刺激を与えることが重要となります。
この場合の鍼治療は痛みを強く感じさせないと意味がありません。強めの痛みが苦手な患者さんはむしろ何もしないで自律の鍼だけにします。
通常の気持ちの良い鍼治療をしますと血流が良くなってしまい、かえって余計に卵胞の発育が多くなってしまうからです。

☆その他、骨盤異常や肩こりなどの症状があれば適宜状況に応じて体質を改善していきます。
(注1)
痛みスケールとは鍼の刺激の度合いを数値化して患者さんに答えてもらうものです。
鍼灸治療の極意は適切なツボに適切な刺激を与えることにあります。
刺激の感じ方は患者さんそれぞれで違いますので痛みの度合いを聞きながら適切な鍼刺激を与えることが重要となるのです。
1.弱い
2.やや弱い
3.丁度良い
4.やや強い
5.強い
以上の5つの刺激の度合いを患者さんに答えて頂き、鍼の太さ、深さ、本数を決めていくのです。